薄氷の上で 〜ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2感想〜

ちょっと時間が空いてしまいましたが、ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2を観てきました。座席が通常の1/2になってしまった影響なのか、前売りチケットが全く取れなくて半ベソでしたが、友人の厚意やら当日券やらでなんとか入ることができました。

 

緊急事態宣言が明けてから見にいった舞台は、刀ステの科白劇のみ。マウスガードをつけ、ソーシャルディスタンスを保った中での演出の最適解だったと思います。発想の転換でこんな面白いことになるのか!と感動しました。でも、あれは今だけの特殊演出。ずっとは続けられないし続いたらきっといけない。

 

そんな中でモリミュの幕も上がりました。その感染症対策は……



ノーガード戦法だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!



(や、誤解なきよう付け加えますが、お稽古のときはマスクなどを着用し、PCR検査の結果はキャストスタッフ含め陰性だったとのことです。当日券も事前の抽選だし、会場物販もなく、密になりそうなモノはすべて排除し、板の上以外の感染症対策はめちゃくちゃ徹底していましたよ)



劇場に入る前に検温され、手足をアルコール消毒し、自分でチケットをもぎり、ロビーでの談笑を控え、ひとつ飛ばしで配置された座席につくーー。いつもとは違う張り詰めた空気の中で始まりましたが、第一声が聞こえた瞬間にロンドンにぶっ飛ばされました。そう、そこには「いつも通りの舞台」があったんです。

幕が上がっている間は、舞台の世界に没入できる。それがどれだけ幸せなことなのか!

 

モリミュは本、演出、お芝居、音楽、歌……どれをとってもレベルが高いというのは初演ですでに判明していたので期待値がかなり高かったのですが、それすら軽く超えてきました。

 

ミュージカルと銘打ってるんだから当然っていえば当然なんですけど、物語のかなりの部分が歌で綴られます。心情を歌いあげるだけなら想像の範囲内なのですが、この作品では原典だったらキモとなる推理部分まで歌にするんです。正気か?正気です。マジマジのマジ。詰め込まれたセリフを歌う。お芝居としてちゃんと歌う。それがストレスなくスッと入ってきて、とても心地がいい。ここまで仕上げるのかなりしんどかったろうな……

 

今回キーになるストーリーは、アイリーンがモリアーティ一派に加わるまで。そして姿の見えない“犯罪卿”に執着するシャーロックの狂気や、コンダクターのように犯罪を操るウィリアムなど、それぞれの立ち位置が初演よりもさらに明確に描かれます。今回驚いたのはフレッド役の赤澤遼太郎くん。前回は周りに引っ張り上げられていたイメージだったのですが、今回はちゃんと自分の力でそこに立っていました。恐ろしいまでのイノセントさに、なんならちょっとゾッとするくらい。それにしてもあれだ、ルイスちゃん、500回くらい「兄さん」って言ってたね?や、オタクの計算なので例のごとく大げさなだけですが、冒頭1曲だけで10兄さん×公演数なのでまあまあ言ってるとは思います。

 

歌だけかと思いきやアクションもバリバリで、キャラクターに合わせた殺陣がはちゃめちゃにかっこよかったです。ほかにも、ハドソンさんとアイリーンのウルトラキュートな対決や、マイクロフト兄のホンモノっぷりなどなどひとつずつあげたらキリがないくらい見どころがあったのですが、その一方でこれだけ積み上げてきたものがウィルスの感染によって一瞬で壊れてしまう可能性が常にあったわけで。観ているアタシたちもドキドキでしたが、演者さんやスタッフさんたちは、毎日が薄氷を踏む思いだったろうな、というのは想像に難くありません。演者さんがカテコやSNSで「今日も1公演を勝ち取った」という表現をしていたのですが、おそらく本当に、必死でもぎ取って守り抜いた公演だったんだろうな、と。

 

こんなご時世だから、どのやり方が正解とかなくって、それぞれの作品が守りたいものを守って出した答えがすべて正解なんだと思います。あとはアタシたちがどれを選ぶかっていうだけなんだ。

 

第一幕の終わりに、アンサンブルの人たちがストンプのように足を踏み鳴らし、そのリズムの中で力強く歌い上げる曲がありました。劇場では、そのズンズンという振動から、怒りにも似た祈りのようなものがダイレクトに伝わってきて。同じ空間にいなければ決して感じることができない響き。その場では当たり前のこととして受け取っていたのですが、後日配信をみて、劇場でしか味わえないものがあるのだと痛感しました。

 

これからエンタメがどんな方向に転がっていくのか正直まだわかりませんが、願わくば劇場という空間の中で、これまでのように演劇を楽しめる日が戻ってきますように。

 

そして、戦い続け全公演を“勝ち取った”モリミュの座組に心からの拍手を。

 

続編でも再演でもいい。アタシは!劇場で!ミュージカル『憂国のモリアーティ』をまた観たいぞ!!!!!!!!!!!!