「ミュージカル『刀剣乱舞』〜静かの海のパライソ〜」初見の感想

 ミュージカル『刀剣乱舞』の新作「静かの海のパライソ』、現段階では兵庫公演の全日程中止が発表されていて、今後もどうなるかわかりません。でも、守るべきは人命。これが最善だと信じています。

 アタシは幸い東京楽日となった公演を観に行けました。本当に多くの人に見ていただきたい内容だったので、感じたことを残していきます。がっつり内容に触れるので、ネタバレが嫌な人は回れ右。でも、なんかこう、今の段階で綴っておかなければいけない気がしたんだよ。

 

 さて、今回はタイトルからも予想できたように、彼らの任務は「島原の乱」絡み。ご存知の通り「島原の乱」といえば、幕末前におきた最大の内戦です。戦争はおしなべてそうですが、この戦でも多くの尊い命が失われました。もしやり直せるなら、そんな歴史はなかったほうがいいのかもしれない。でもそれが刀剣男士にとって「守るべき正しい歴史」だとしたら……? たとえ多くの命が失われようとも、その愚かしさや惨さを史実どおりにしなければいけない。正しさとは一体なんなのか。隊長を命じられた鶴丸は、すべてを理解した上で自らメンバーを編成し、島原へと向かいます。選ばれたのは、大倶利伽羅豊前江、松井江、日向政宗、浦島虎徹そして、時間遡行軍の狙いは天草四郎。彼を亡き者にし、島原の乱に関する歴史を変えようと試みます。天草四郎は彼らによって討ち取られるのですが、本番はここから。そう、刀剣男士「たち」が天草四郎に成り代わるんです。その役割を担うのは、鶴丸の他に、日向くんと浦島くん。それぞれがそれぞれのやりかたで、反乱軍となる兵を集めます。

 

 ここからは全てが残酷でした。だって、歴史を守るために、死ななくてよかったかもしれない人たちを煽り、戦へと駆り立てーー史実どおり全滅させなければいけないのですから。

 友達を作るのが得意な浦島くんは人懐っこさで、豊臣と縁のある日向くんは豊臣秀吉の孫として(天草四郎豊臣秀頼落胤だなんていう俗説からきてるのかな)、そして鶴丸は宗教者の神聖さで賛同者を集めていきます。事の重大さに気づいていない日向くんと浦島くんが無邪気に扇動している姿は、その後に必ず起こる悲劇の序章でしかなくて、彼らが一生懸命でいればいるほどつらかったです。

 

 物語は、アタシたちが知っている島原の乱へとむかって加速していきます。すべてを背負いヒールに徹して扇動する鶴丸の覚悟が痛々しかったし、ここからどこへ向かうのか解っている松井のやるせなさと怒りが切なかったし、名もなき民たちと絆を深めていく浦島くんのその後を想像しただけで胸がつぶれそうでした。地獄かよ。でもね、これが「正しい歴史」なんだよな。クソが。

 

 そんな中、鶴丸の覚悟を察して寄り添っていた倶利伽羅くんと、過去の記憶でぐちゃぐちゃになりそうな松井を支えてあげた豊前っていうのが、この部隊の精神的な安定剤だったんだろうな、と。にしても倶利伽羅くん、みほとせで本当に成長したんだね。一介の農民・吾兵と心を通わせ、そして戦で彼を亡くしたという出来事が本当に大きかったんだろうなぁって思います。そしてあのときの石切丸のように一人で抱えこませてはいけないというのも、痛いほどわかっている。だからこそ、きちんと鶴さんの隣に居てあげられたんだよね。鶴さんは、その辺もわかって編成したのかもしれないなあ、と。伊達推しの幻覚かもしれないのでこのへんで止めときますw

 

 今回何よりもショックだったのは、”刀剣男士は、あくまで「歴史を守る」のが役割であり、正義のヒーローではない”ということ。頭ではわかっていても、それを見せつけられるのはかなりキツかったです。みほとせの時もそうだったのですが、相手が人間であっても「敵側」なら容赦なく殺す。歴史を守るために殺す。顕現したての松井はそりゃあとまどうし、見てるアタシらだって戸惑ったよ。でも、これが「刀剣男士」なんだよな……。

 

 ラストがどうなったかまではさすがに書きませんが、ここまでしんどい話をきちんと形にしてくれた座組には感謝しかありません。その歴史の上にーー愚かな殺し合いの上にーー今があるのだから。そしてその正しい(とされる)歴史は勝者側から見た歴史でしかないんだよね。

 刀ミュを好きな理由のひとつに「名もなき人」に徹底的に寄り添っているっていうのがあるんですけど、この作品はまさにそれでした。これまでも、たとえば前述のみほとせの農民だったり、むすはじの名もなき刀たちだったり。あおさくでは名前こそ残っているけれども、歴史のメインストリームにいなかった人をピックアップしたりして。そして今回は、島原の乱で命を落とした人たちでした。(パンフを読んだら演出の茅野さんがその辺に言及していましたね)とても挑戦的な作品だったと思います。そしてこれを刀剣乱舞というコンテンツで描いたことに大きな意味があると思うんだ!

 

 にしても、だ。歌合であんな感じで「あなめ~でたや~め~でたや~」って松井のことお迎えしたくせに、いきなり地獄に突き落とすんだから、あの本丸なかなかに恐ろしい。そんで時の政府!ステ政府にはすでにブチ切れてるんですけど(お前のせいで三日月さんは……三日月さんは……!)、ミュ政府もなかなかにアレかもしれんな……。

 

 コロナ禍のせいでもう1回見られるかどうかは今のところわかりませんが、心にズシンとくる佳作だったので、なんとかして上演されることを切に願います。今すぐじゃなくてもいいので。もっともっと多くの人に見てもらいたいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!