始まり続ける物語の結末へ ~『劇団ドラマティカ 西遊記悠久奇譚』の感想~

雑な結論から言うと、ものすごく、ものすごくすてきな作品で胸が震えました。

ミリもネタバレしない方が500000000倍くらい楽しいから、少しでも気になってここに辿り着いた方がいたら、今すぐブログを閉じて東京凱旋公演の当日引換券を買うか大楽の配信予約してください!

 

※以降バレありなので、それでもいい方のみ進めてください。

 

今回の「西遊記悠久奇譚」は、あんさんぶるスターズ!!に登場するサークル『劇団ドラマティカ』の旗揚げ公演ということで、キャストではなくアイドルが作品を上演するという二重構造。これ、てんごではわりと珍しくもなかったりするのですが、あんスタでは初の試みで、どんな作品になるか正直かなりドキドキでした。

最推し北斗くんだけじゃなく、大好きな渉や、最近個人的にグイグイきている凪砂くんが出演。さらに脚本・演出は伊勢直弘さんだっていうから期待どころじゃなかったんですが、蓋を開けてひっくり返ったよね。

 

アタシたちが見ているのは、『あんさんぶるスターズ!!』の「劇団ドラマティカ」旗揚げ公演だ!!

 

扮装していればそう見えるだろって思うかもですが、これが意外とそうでもなくて。ちゃんとキャラが演じているって感じられたんですよね。

西遊記』をベースにしているから、役柄に関してはゼロから知る必要もなく、物語の世界にすっと入り込める。役者ではなくキャラクターに当て書きされた台本が、あんスタと西遊記の世界を巧みにリンクさせていきます。

北斗演じる悟空が、渉演じる三蔵とともに仲間を集めながら天竺へ向かうという、誰もが知るあの冒険譚。ひたすらポップで軽やかに物語が進んでいく。

 

第一幕のハイライトは金角・銀角戦。金角役は夏目くん、銀角は宗くんが務めました。そう、ここ兼役だったんですよー! アンサンブルはいるものの、演者はこの5人なんだということが強調されたように思えてめちゃくちゃたまらなかったです(語彙がバカ)

 

仲間の力をあわせて勝利!っていう少年ジャンプな展開はとにかく爽快で、旅の一行のことがどんどん愛おしくなる。お釈迦様のもとにたどり着けなければ輪廻を繰り返すと三蔵は告げるけれども、このメンバーならきっと大丈夫、そんな気持ちにさせてくれました。

 

ところが第二幕。様子がガラッと変わります。殺生によって破門される悟空。自由を求めていたはずがいつしか三蔵や仲間と離れがたくなっていたことにも気づく。ああああ、ここでも“あんさんぶる”したんだね……と感慨深くなるのは、アタシが夢ノ咲の転校生だったからだろうな。

そしてクライマックスで明らかになる三蔵の真の目的。

それは「天竺にたどり着くこと」ではなく、「天竺にたどり着くための旅を繰り返すこと」だったんです。

「始まり続ける物語」ってそういう――!!!!!

 

みんな大好きループもので、しかもそれが三蔵のクソデカ感情によるものだなんて……オタクは天を仰ぐしかないじゃないですか……。

正解にたどり着くために繰り返すほむらタイプではなく、楽しい今を終わらせないために繰り返すハルヒタイプ。なんならアタシらも夢ノ咲を何周も回ったね……。

 

自らの願いに囚われてしまった三蔵を救うために、この旅を終わらせようとする悟空。ラストバトルの刹那、静寂の中で交わした2人の言葉は、もちろん物語の中のセリフではあるのだけれども、“あんすたのキャラが役を演じている”という構造上、そのキャラクターの背景や関係性が言葉の奥に広がって、この舞台では描かれていない物語までをも想起させる。

そうだよね、渉と北斗の関係も師匠と弟子だもんね。

二重構造になっている作品ならではの感情に尊さが爆発して、気づいたら信じられないくらいに泣いていました。(てか、なんならこれ書きながら思い出し泣きしてるんですけど)

ついでにいうと、このパートの2人のお芝居が、シンプルにとてもいいんです!推しの一慶くんが推しの北斗を演じているというひいき目(ひいき目がすぎる)を差っ引いても、ほんとにほんとに良くって(また語彙がバカになった)。感情の乗せかたに無理がなくて、心の動きがストレートに伝わってくるんだ……。

 

ラストでまたループ確定ルートに入るわけですが、悟空には少しだけなにかが残っているような描写があり、もしかしたら次は……という淡い期待で物語は幕を閉じます。切ないけれどとても美しく、尊いお話でした。

 

これ、キャラクターが役柄を演じる二重構造だけじゃなく、毎回同じ話を繰り返す「演劇」っていうジャンルともメタにリンクするんだよね。次も、次も、次も同じ旅を繰り返すけれどもきっと全く同じ旅なんてなくって、もしかしたら新たな結末を迎えるかもしれない。

 

1度の観劇でも胸を打たれるけれども、2回目からは確実に見える景色が変わるタイプの物語。オープニングでメインテーマに入るとき、悟空の表情がガラッと変わる瞬間がありました。2周目じゃじゃないと気が付けないお芝居。歌に入るってことで心を作っているだけかもしれないけれども、もしかしたらあそこでこれまでの旅の記憶のようなものがよみがえっているのかな、なんて。

 

 

さて、この物語、最後の最後はどんな結末を迎えるのか。

このままループして終わるのも切なくていいけど、大千秋楽で変わってしまうっていうのもエモくていいですよね……。

 

旅の途中に彼らの偽者が現れたのが今回初めてだったということで、もしかして特異点になりうる何かがあるのでは? いや、偽者はもしかしたらどこかの時間軸の彼ら自身で……?なんて妄想もどんどん捗る。

 

彼らの旅も残すところあと4公演。

その終わりと始まりを、最後まで見届けようと思います。