夜が明けたその先へ ーミュージカル『憂国のモリアーティ Op.3』ー

ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3千秋楽おめでとうございます。

途中アクシデントで数公演できなくなってしまったけれども、なんとかここまで来れてよかったです。大袈裟でもなんでもなく、本当に祈るような思いでした。

ということで、今回はガッツリと内容に触れたいと思います。本編だけでなく原作最新巻に関するバレもあるかと思うので、もし未読でバレを踏みたくない方は回れ右をしてください。

 

今作で強く感じたのは“個”へのフォーカス。ソロ曲が多く、それぞれのパーソナルな部分を曝け出したようなナンバーが目立ってたように感じます。

本格的に「モリアーティプラン」を始動させるウィリアムの覚悟と、自責とも取れるアルバートの吐露。ウィリアムの描く未来にいないのは、“モリアーティ”ではなくウィリアムだけなのではないかとなんとなく察しているようにも思えました。

そして、もうひとつ色濃く描かれていたのが、ウィリアムからシャーロック、そしてシャーロックからウィリアムへの想い。これを腐女子的な矢印で捉えるのはあまりにも安直すぎて興醒めしてしまうのですが(アタシがそういう性質なだけで、否定する気はさらさらないです)それでもオタクの便利な言葉を使うなら「クソデカ感情」が真正面からぶつけられているんですよね。

“謎”に惹かれると歌うシャーロック。その“謎”そのものが“犯罪卿”であるというのも分かっている。ただ、Op.2のときのシンプルな執着ではなく、そこに「彼は義賊ではないか」という疑念(もしくは希望か?)が生まれ、真実に触れようとする。

シャーロックはデタラメに見えるけど、すごく真っ当で善の人なんだよね。感情も楽曲もややこしいけれども、それをブレずにまっすぐ届ける平野良さんの力量たるや。

一方ウィリアムは、どんなに周りに仲間がいても孤独でしかなかった。まぁこれはウィリアムの優しさゆえだと思っているんですけど。仲間たちを愛するが故に、独りですべて背負おうとしていた。そしてモリアーティプランという破滅への道を進み始めていたのだけれども、そこにシャーロックが現れた。歌詞の中に何度もでてくる“風”は、きっとシャーロックのことだよね。孤独な部屋に吹く風……。

自分が進むべき茨の道の中に、微かだけれども希望を見出してしまったウィリアム。もちろんその希望に救いは求めないのだけれども、それでも「風が吹くことは神も許されるだろう」という、ささやかすぎる願いを歌うだなんて。

鈴木勝吾さんの美しく力強いハイトーンボイスが、ウィリアムの高潔さと相まって胸に刺さりました。

そんな2人の感情が絡まり合った象徴的な楽曲が『輪舞曲』(タイトルわからないんで適当いってます)だと思っています。ウィリアムは「最後(最期?)の日まで」、シャーロックは「お前を捕まえるまで」 って歌っていて。このCP推しだったら泡吹いて死んでたな……。

もちろん、この2人のやりとり以外にもたくさんの見せ場がありました。

個人的にめちゃくちゃ昂ったのは「ホワイトチャペル〜」での兄弟共闘! ルイスの眼鏡が外れたらそれはもう本気モードですよ。原作にもあった互いの武器を交換して戦うシーンは、なるほどこうなるのか〜〜〜と大興奮。推しへの贔屓目もあるかもしれませんが、それをさっ引いても山本一慶さんの殺陣ってめちゃくちゃ速くてかっこいいんですよ……長物を振り回すの、もっとください!(欲望だだ漏れすな)

そうそう、せしるボンドくん最高に素敵でしたね。あっという間に夢女ですよ……。欲をいえば銀行での8カウントも見たかった! ヤードの衣装を着たときの帽子をクイっとあげる仕草と角度が完璧すぎました。足ドンもありがとうございます。

レストレード劇場も楽しかったな。シリアスシーンが多かったから、いい具合にポップでよかったです。まあ内容はアレだし、いささかポップすぎる内臓ではありましたがw

新キャラも最高でしたね。

まずはジャック。モリステはスタイリッシュな印象でしたが、モリミュはエネルギッシュって感じでしたね。(どっちも違って好きよ!)ガハハ笑いのにあう豪快さで、頼もしかったです。元気なイケオジは健康にいい……。

前回もちらっと書きましたが、パターソンはかなり好き眼鏡でした。彼もまたウィリアムにクソデカ感情を抱えているのですが、今作ですでにそれが描かれていたので、彼の為人が見えやすかったように思えます。

「あなたのコウモリとなりましょう」と歌うシーンはかーなりゾクゾクしましたね(ただの“癖”です)。ただ、コウモリっていうのは、ヤード内通者としての“卑怯なコウモリ”(イソップ寓話のアレね)を指しているのか、それとも“使い魔”的な意味なのかは実はちょっと分かっていないんですけどね。それとも両方なのかしら?

輝馬さんのパターソンが原作からそのまま出てきたようなルックスで、気が狂うかと思いました。歌のうまさは言わずもがな。

そしてそして、ついに登場しましたね。しちゃいましたね、ミルヴァートン。救いようのない悪というか、この物語において最低最悪のキャラクターなんですけど。

藤田玲さんのミルヴァートンはホントに強い。歌もお芝居も強すぎるよ……! 立ちはだかるのはこうでなくちゃね。悪党のくせに色気があるのもとてもいいです。

 

「ホワイトチャペルの亡霊」を中心にしつつ、パーソナルな部分にスポットを当てた物語でしたが、最後のエピソードはダラム大学での出来事。アニメではカットされてしまったのですが、このお話って今後につながる重要なピースだと思うんですよね。だから入れてくれたのが本当に嬉しくて。

このエピソード自体は、おそらく映画『グッド・ウィル・ハンティング』が元ネタですよね。学生の名前もビル・ハンティング(ちなみにどんなルールでなのかはわかりませんが、ウィリアムの愛称がビルになるってのはよくあります)ですし。

陰鬱とした戦いの中、ビルを介してただひたすら未来への希望だけが描かれたこのパート。互いに腹の探り合いはしているんだけれども、そこには友情にも似た奇妙な信頼関係もあって。

眩しく光に満ちた旋律だからこそ、闇とのコントラストが強くなる。これから彼らに待ち受けていることを思うと胸が潰れそうになるけれども、この先に続く物語が見たいと強く感じました。


このカンパニーが描く『憂国のモリアーティ』が大好きです。

ー運命の夜が明けるー

夜が明けたその先を、どうか一緒に見せてください。